瀬名恭司から相川玲に降りたファンの話

ビビッドカラーの青いワンピースを捨てた。 青いレースを縫い付けたスカートも捨てた。 青い花冠も、青いスパンコールリボンも、青でデコレーションしたうちわも、全部全部捨てた。

これは、私が瀬名恭司を降りた話。

瀬名を応援して7年と3ヵ月経った。 vivid!!!のデビューが2008年3月だから、彼らがデビューしてからの大半を見てきた事になる。 世間様も知っているように、vivid!!!は茨の道を歩いてきた。山も谷も落とし穴もあった。内部から突き落とされる事もあった。 度重なるメンバーの不祥事に、相次ぐフライデー。メンバーの脱退。 誰がこんな波乱万丈を予想していただろうか。私は、していなかった。 私たちのカッコイイ王子様は、カッコイイままキラキラと輝き続けると信じていた。信じていたし、確信もしていた。 その確信は、外れてしまったけれど。

8人で始まったvivid!!!は、8年かけて5人になった。 秋山誠也、狩野正樹、宇治川蓮、松本隆也、瀬名恭司の5人。 私の担当がその中に残っている事が嬉しかった。誇りでもあった。 鮮やかな色彩の中に、私の青は常に咲いていたのだ。

先に宣言しておくが、私は彼らにがっかりした事はない。 ダサい曲を歌って、珍妙な衣装を着て、ヘラヘラと笑っている姿に憤りを感じる事はあったけれど、がっかりした事は1度も無いのだ。

それでも瀬名から降りようと思った理由を、相川玲との出会いから辿ってみようと思う。 身内から「寂しい」と言われた。「裏切りだ」とも言われた。 それでも私が瀬名から相川に降りようと決心してしまった理由を、辿らなくてはいけない気がする。 身内への言い訳なのかもしれない。言い訳なのだろうと思う。言い訳でも良いから、とにかく私は、今のこの気持ちを書き残しておかなければならない。

【1】相川玲との出会い

Party tun up!という曲を聞いたことがあるだろうか? 私は、渋谷TSUTAYAでそれを聞いた。 1階の新曲コーナーの一角に、その曲は並べられていた。 知らない人が見ても「あぁ、FINの新人かな」と分かるような、FINアイドルらしさのあるジャケット写真だった。 私は事務所担じゃない。ましてやDDでもない。 言ってしまえば「vivid!!!しか分かんない」ような人間だ。 もちろんJackSやSAKURAのような「日本人なら誰もが知っている」ようなグループは分かる。デビュー組なら顔と名前も一致する人がほとんどだ。 けれど、こと若手になるとからっきしだ。メンバーどころか、グループ名すら覚えているか甚だ怪しい。 だからCDを手に取った時も「スプラッシュ……で、読み方合ってるっけ?」という覚束無い印象だった。

そのCDを買ったのは、偶然だ。 ジャケットが好みだった事もあるし、何かを買いたい衝動に駆られていた事もあるし、たまたまその時有線で曲が流れていた事もある。 とにかく、そういった偶然が重なった。 初回限定盤なのにPVすらつけてもらえない事に驚いた。FINは確かに厳しい事務所だから、売れていなければPVは作らせてもらえない。 vivid!!!だってPVを作らせてもらうまでに2年近くかかった。初めてPVを作らせてもらった時の感動をよく覚えている。 そういえば、新人の頃なんてそんなもんだったよなぁ、と懐かしさを覚えながらCDを聞いた。

これが、私が相川玲を知った瞬間だった。

一番最初に目に付いたのが、相川だった。瀬名に、ちょっと似ていたのだ。 髪色が近かったのもある。 キラキラとして眩しくて、わかりやすく整った顔をしていて、なにより楽しそうだった。 この中なら、この子が1番好きだなぁと思ったのだった。

【2】相川と瀬名、S+hとvivid!!!

相川を調べると、アッキー主演のホームドラマで弟役を演じた研修生だった事を知った。 そのドラマをちゃんと見ていたわけでもないし、相川を覚えていなくても当然と言えば当然だった。 古い切り抜きファイルをひっくり返して、相川を探す。 そこには、今よりずっと幼くて、ずっと小生意気そうな少年が笑っていた。 この子は、昔からキラキラと笑う子だったんだなぁと思う。 愛嬌があって華がある。 遊んでそうで、チャラそうで、けれど人目を惹く華やかさがある。 今とそんなに変わらない、明るい子だった。 瀬名も昔は、朗らかに笑う子だったよなぁと思う。 瀬名は、顔が良い。整っているし、王子様然とした雰囲気がある。 キラキラしてるし、華やかさもある。 もっと、素直に笑う子だった。もっとピーターパンのようにハツラツとしていた。 今のかっこいい瀬名も好きだ。けれど、あの頃の可愛い瀬名も、大好きだったのだ。

CDの中の相川は、機転も効くし出しゃばらない、けれど必要な時はきちんと突っ込むしきちんとボケて突っ込む。 頭の良い子だと言えた。 なにより、トークが面白かった。 グループ自体の話のテンポがとにかく良い。 vivid!!!もたいがい愉快なグループだと自負しているが、それとも比較出来ない。 普段からこんなテンポで会話しているんだろうなぁと思わせてくれるような、いやらしさの無い会話がとても印象的だった。

うちの子たちも、こんなに面白かったら、もっと売れていたのかなぁと思ってしまった。

vivid!!!とS+hを比べてしまった瞬間だ。 vivid!!!には、こんなに面白い子は居ない。 元々ハチャメチャだったユズルも勘助も居なくなってしまった。今の5人は、真面目だ。良くも悪くも。 真面目だから、アイドルに徹して面白い話もする。ファンが求める「プライベートの俺達」の話もする。 全部、彼らが真面目だからだ。 もっと自由で良いのにな、と思う。 vivid!!!はかっこいい。5人ともかっこつけだから、かっこつけてて良いのに。 ファンも、まるで腫れ物のように、彼らが出してくるものに「ありがとう」と言う。 「作らなくて良いのに!」「自由に話して、自由にアイドルして良いのに!」とは、誰も言わない。 S+hには、きっと無いんだろうなぁと思う。 彼らは始まったばかりで、彼らにはまだ落とし穴も無くて、山も谷も無くて、ただただ燦然と輝く未来しか見えていないのだろう。 彼ら自身も、そしてファンも。 眩しかった。羨ましくもあった。 この子達について行ったら、私が瀬名にvivid!!!に抱いていた夢を、もう一度見れるのかもしれないと思ってしまったのだ。

瀬名にかけていた期待も、重圧も、vivid!!!に抱いていた夢も、たぶん擦り切れていたのかもしれないと悟った。

これが、私の中で担降りを意識した瞬間だった。

【3】おめでとうを言えなかったファン

私は研修生公演を見たことが無い。 研修生の顔も名前もほとんど知らない。 だから、もちろんstarburst!企画も知らない。

おめでとうを言えなかったファンになった。

相川を調べると、すぐにstarburst!企画に行き当たった。 彼らがデビューする事になったオーディションなのだから当然だ。 FINオタの間では「研修生のオーディション企画をやっている」「Twitterをやっている」と話題になってはいたが、正直研修生に興味が無いから触れなかった話題だった。 こんなえぐいオーディションをやっていたとは知らなかった。

オーディションを知らないファンを、新規と言うのだろう、と思う。 FINオタの新規叩きは、もはや文化だ。 vivid!!!で言うなら「マジS出は永遠の新規」と叩かれるのと一緒だろう。例えマジSの放送が7年前だとしても、そこから出てしまったら永遠の新規なのだ。 今から入ってしまったら、きっと新規だと叩かれるのだろうと思う。 starburst!を知らない人間なんて、きっと永遠にニワカと呼ばれ続けるのだろう。 でも、私はstarburst!企画より前から相川担の人にこう言われた。

「おめでとうを言えなかったファンは、S+hの背中を押してくれる人」

この言葉に、何度救われただろう。 新規が居ないと、そのグループは解消されてしまうのだ。当然だ。 FINは厳しい事務所だ。これは間違いがない。私は、解消されてしまったグループも知っている。 だから、おめでとうを言えないファンは、確実にS+hを守って育てる存在になれるのだ。

夢を見ていいのだろうか。 私は、相川に、S+hに、アイドルとしてスターダムに登りつめる夢を見ていいのだろうか。 おめでとうを言えなかった。投票もしなかった。Twitterをフォローしたのも最近だ。 けれど、私は今日から「頑張れ」と言える。ダサい衣装にはダサいと言って、時に叱咤して、それでもかれらがキラキラの世界で輝く夢を一緒に描けるのだ。

悔しさが無いと言ったら嘘になる。 研修生時代や、starburst!企画の頃から応援していた人と同じ温度も同じ時間も、きっと共有出来ない。 彼らが懐古する時、その時に私は確実に居ない。 それが寂しいのも嘘じゃない。 でも、私のような新規の存在は、確実に彼らを大きくする。 それが誇りだ。

【5】ばいばい、ありがとう、楽しかったよ

瀬名を好きな気持ちは、もちろんある。 でも、瀬名にかけていた夢は擦り切れてしまった。 いつかvivid!!!が国民的アイドルになって、降りた事を後悔するのかもしれない。 でも、私は瀬名が自由に笑ってくれるなら、悲しくなんか無いんだろう。 大好きだった。瀬名を追いかけた時間は楽しかった。 だから、ばいばい、ありがとう。 青いワンピースを捨てた。青いレースのスカートを捨てた。花冠もリボンもうちわも捨てた。

今日私は、ピンクのワンピースを買った。

これは、私が瀬名から相川に降りた話。